「彷徨う人」
幕間
熟果
硝子器の中で果実が艶かしく光っている。
初ものをぜひ召し上がっていただきたいと言って領民が持ってきたそうだ。
届けられたばかりの苺は、先ほどチャーリーが部屋に運んできた。
「領主らしいことなんて何もしていないのに」
少し自嘲気味に言い、ジュリアンは赤い実をつまんだ。
口に入れて数秒後、僅かに顔を顰める。
「ん……」
「どうした?」
アルフレッドが訊ねても、ジュリアンは眉根を寄せた表情で固まっている。
暫し押し黙ってから、ジュリアンは“酸っぱい”と言った。
甘くない、果肉も固い、今年は不作なのかななどと呟く。
どれ、とアルフレッドも苺を口に入れてみる。
甘い。酸味はほとんど感じられなかった。良く熟しているのか、果肉も柔らかい。
「甘いぞ。ぜんぜん酸っぱくない。美味いじゃないか」
腑に落ちない表情のアルフレッドの横で、ジュリアンがくすりと笑った。
その様子を見て、アルフレッドはようやく気づいた。
「騙したな」
「うん。あっさり騙されてくれてありがとう」
少々むくれるアルフレッドの口元に、ジュリアンが苺を差し出した。
白い指と真っ赤に熟れた果実の競演が官能的だ。
その美しい対比コントラストに見惚れながら、アルフレッドは差し出された苺を口に含んだ。
噛み締めたとたんに果汁が溢れる。
ナプキンへ手を伸ばす前に、アルフレッドの唇からこぼれた果汁をジュリアンの舌が舐め取っていった。
「美味しい」
ジュリアンが微笑む。
熟した果実よりも艶かしく。
「もっと食べる?」
この誘惑に勝てるわけがない。
初ものをぜひ召し上がっていただきたいと言って領民が持ってきたそうだ。
届けられたばかりの苺は、先ほどチャーリーが部屋に運んできた。
「領主らしいことなんて何もしていないのに」
少し自嘲気味に言い、ジュリアンは赤い実をつまんだ。
口に入れて数秒後、僅かに顔を顰める。
「ん……」
「どうした?」
アルフレッドが訊ねても、ジュリアンは眉根を寄せた表情で固まっている。
暫し押し黙ってから、ジュリアンは“酸っぱい”と言った。
甘くない、果肉も固い、今年は不作なのかななどと呟く。
どれ、とアルフレッドも苺を口に入れてみる。
甘い。酸味はほとんど感じられなかった。良く熟しているのか、果肉も柔らかい。
「甘いぞ。ぜんぜん酸っぱくない。美味いじゃないか」
腑に落ちない表情のアルフレッドの横で、ジュリアンがくすりと笑った。
その様子を見て、アルフレッドはようやく気づいた。
「騙したな」
「うん。あっさり騙されてくれてありがとう」
少々むくれるアルフレッドの口元に、ジュリアンが苺を差し出した。
白い指と真っ赤に熟れた果実の競演が官能的だ。
その美しい対比コントラストに見惚れながら、アルフレッドは差し出された苺を口に含んだ。
噛み締めたとたんに果汁が溢れる。
ナプキンへ手を伸ばす前に、アルフレッドの唇からこぼれた果汁をジュリアンの舌が舐め取っていった。
「美味しい」
ジュリアンが微笑む。
熟した果実よりも艶かしく。
「もっと食べる?」
この誘惑に勝てるわけがない。
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