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「彷徨う人」
幕間

レドモン家は今日も平和

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大変です。ご主人様が行方不明になりました。
またかと仰いましたね。ええ、またです。
つい二週間ほど前にお一人で倫敦へ行ってしまわれ、大変な騒ぎになったばかりですのに。
どうしたことでしょう。どうしましょう。
わたくしですか? エマと申します。レドモン家の小間使いです。
小間使いの朝は早いですよ。六時には起床して、まずは暖炉掃除から始めます。
え? お前のことはいいから主人がどうなったか教えろ?
そうですね、うっかりしておりました、わたくしとしたことが。
現在、朝六時四十三分です。
何でも、ごしゅじ……主人の姿が見えなくなった、正しくは、いないことに気づいたのは六時半ごろだそうで。
最初に気づいたのは同居人のアルフレッド様です。
“疲れていたから寝台を抜け出した気配にすぐ気づけなかった”とのことです。
まあ……何だか照れますわね。あっ、またよけいなこと言っちゃいました。
それどころじゃないんです、今は家人総出で主人を捜している最中でした。
わたくしとチャーリーさんで邸内を、アルフレッド様とハリーさんが邸周辺の森を、トーマスはもっと足を延ばして領内のあちこちを。
領民にあまり顔を知られていない領主ですからね、こういうとき不便です。
絨毯をめくったり、長椅子の下を覗いてみたり。
そんなところにいらっしゃるわけがないじゃろとチャーリーさんは仰ってますが、念には念を入れてです。
はあ……もう七時を回ったのですね。今回は書き置きも何もないんですよ。
ただ、アルフレッド様の外套が一枚なくなっているそうなんです。これを着てお外に出られたのでしょうか。
あらっ。誰か帰ってきたみたいです。玄関に行ってみましょう。


邸内捜索の続きをチャーリーに任せ、エマは玄関ホールに向かった。
そして、“帰ってきた”のが誰かを確認したとたん、大声を上げた。
邸中に響くどころか、森の木々も飛び上がるほどの大音声である。
そこにいたのは捜されている、捜しているはずのジュリアンだった。
エマの声に驚いたのか、眼を見開いて呆然と立ちつくしている。
夜着の上に外套を肩掛けしただけの姿で、四月の早朝には少々寒そうだ。
呆れと驚きと困惑の入り混じった表情でジュリアンが何か言いかける。
しかし口を開いただけで、ひと言も発せなかった。
突っ立つエマの背後で今度はチャーリーが叫んだからだ。
鴉が首を絞められたような声を上げてからチャーリーは泣き出した。エマも一緒に泣き出す。
ジュリアンはますます呆れ顔になり、再び何か言おうとしたが、やはり口を開きかけて止まった。
「ジュリアン……」
アルフレッドの声は安堵と怒りが半々といったところである。
振り返り、三度何か言おうとする前にジュリアンは抱きしめられた。
「身体が冷え切ってるじゃないか。こんな薄着でどこへ行ってたんだ」
「……散歩」
それきり無言でしばし抱き合う二人の傍でエマとチャーリーは号泣し続け、ハリーは苦笑いで見守り、遅れて帰還したトーマスはただおろおろしていた。
レドモン家は今日も平和である。


えーと。何から話します?
そうですね、ごしゅじ……主人がいなくなったのは、家出だとかそういうことではなく、お散歩でした。
何でも、一度でいいから夜着で歩いてみたかった、とのことです。
このところずっと、一人で出歩くなとアルフレッド様に言われていたんですって。それなら皆が寝静まっている時間に歩いてみようと思い立ったそうで。
六時少し前にお部屋を出たということです。わたくしはまだ就寝中だったかもしれません。
夜着だけでは寒いから、目についたアルフレッド様の外套を引っ掛けて行ったんですって。
ご無事で何よりです。わたくしに言えるのはそれだけでございます。
チャーリーさんはなかなか泣き止みませんでしたし、アルフレッド様は怒るやら嘆くやらでしたし大騒動にはなりましたけど、まあ何とか収拾がつきました。
ますますお一人での外出が難しくなるんだろうな……。
あっ、そろそろ仕事に戻らなきゃ。
では失礼いたします。
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mayuさんもfc2やられてたんですね!٩(ˊᗜˋ*)و
fc2友達です♪
エマさん久しぶりです♪
ジュリさん夜着で散歩してみたかったのかw
出歩くなって言われてるから皆んなが寝静まってから出歩くとか可愛いです(笑)ジュリさんが可愛い今日この頃です(笑)

いらっしゃいませ

たおるさん、いらっしゃいませ! コメントありがとうございます。

本編の続きを書かねばならないのですが、体の不調やら私生活が落ち着かないやらでゆっくり腰を据えられず、殴り書きSSになりましたw
夜着での散歩はジュリアンの夢だったみたいです(マジでw)。
アルフに怒られたりチャーリーに泣かれたりするので、こっそり出ていったつもりなんでしょうね。
それなら深夜やもっと早朝の暗い時間にすればいいのにと作者は内心でツッコミを入れました。
読んでくださり、また、ジュリアンを可愛いと言っていただきありがとうございます!
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